B:殺戮試験機 ガルガント
ガルガントは、浮行兵器エアロスタットの試験機だ。公開されてる資料によると、ナパーム弾で獣の巣を焼き払う目的で作られたものらしい。昔話に出てくる甲虫みたいな頑丈さを目指したって話だが、運悪く落雷が直撃してね。攻撃対象を識別する制御機構がイカれちまったんだそうだよ。かくして、殺人マシンが誕生した。軍は長らく放置してたんだが……さすがに危険だからって、有志が協力して懸賞金をかけ、リスキーモブに指定したのさ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「ガルガントの話は聞いたか?」
あたしは頭を振った。レストランを兼ねた酒場で強引に相席してきた男はやたらと馴れ馴れしい。投げかけた質問の答えに満足げに頷きながら話しを続けた。
「ガルガントってのはアレクサンドリアの武王になったゾラ―ジャ王子が研究開発を指示して作らせた兵器の1つでな。名目は魔獣の巣を焼き払って国民の安全を守るための兵器だってことになってる」
あたしは首を傾げる。
「なってるってことは実は違うの?」
男は運ばれてきた皿の上の肉を無心に切っていたがあたしの問いかけに上目遣いに反応した。
「ああ。このガルガントってロボット兵器には嘘が多い。」
そういうとようやく切り分けた厚い肉を口に放り込む。
「ガルガントってのは、浮行兵器エアロスタットの試験機だ。こいつらはアレクサンドリアのエレクトロ―プ技術の結晶でな。エレクトロ―プっていう鉱石の特性を利用してそれを動力に動いてる。」
フォークを振り回しながら男は続ける。
「ガルガントは人工知能が搭載されていて自らの判断で行動させることが可能って触れ込みのアレクサンドリアの技術の粋を集めたシロモノなんだ。だが魔獣の巣を焼き払うのにそんなロボいると思うか?」
「そうやね、いらんと思う」
相方がうんうんと頷きながら答えた。
「じゃ、なんでそんな高性能な兵器を作らせたと思う?」
あたしは少し間をおいて言った。
「…最初から戦争で使う気だった?」
あたしはゾラ―ジャが指示して作らせた兵器が彼の故郷であり家族が治める国であるトライヨラへの侵攻で使用された事を知っていた。
「おいおい、質問に質問で返すのはねぇぜ。まいいが、そういうこった」
「なんでそんなこと考えたの?王になれなかった逆恨み?」
下馬評では圧倒的であったゾラ―ジャが王位相続争いに敗れトライヨラの王になれなかったことは誰もが知る周知の事実だ。
「それは大きかっただろうな、だがそれだけじゃない。エーテルが欲しかったのさ」
「エーテル?」
「ヘリテージファウンドは雷属性のエーテルが暴走して年中雷雲に包まれてるだろ?あれを正常化させるには対極にある水のエーテルが大量に必要になるが、アレクサンドリアは常にエーテルが枯渇している。だから奴は国の外にそれを求めるしかなかったのさ。結局最初から他国への侵略のために兵器を開発したって訳だ。これが一つ目の嘘。」
そういうと彼は一旦口を噤んだ。
「細けぇこと言えばもっともっと嘘が重ねられてるんだが、俺がどうしても許せねぇ、許す訳にはいかない嘘があってな…」
あたし達は雰囲気が変わった彼の言葉や表情に黙り込んだ。
「ガルガントは人工知能を搭載しているって言ったろ?あれが嘘だ。アレクサンドリアは人工知能の搭載に失敗している。」
「え?」
だがアレクサンドリアから投棄された今でもガルガントはヘリテージファウンドの荒野を彷徨っている。あれは一体…?あたしが口を開く前に彼は話し始めた。
「人工知能搭載の失敗をメンツが邪魔して公表できなかったのさ。それを隠蔽するための穴埋技術として魂資源技術の応用で誤魔化したのさ。」
「まさか…、あれは…!?」
あたし達は息をのんだ。中身は人の魂だというのだろうか?男の目を見て聞いた。
「そういう事だ。そしてそれは代替えになった者の同意もないまま行われた。だからガルガントはアレクサンドリアの命令に従わないんだ。ささやかな抵抗ってやつだな。奴らはその事実が公になるのを恐れ、隠蔽するために試験運転の際に落雷に撃たれ識別機能が破損した事が挙動異常の原因で敵味方の認識が出来なったから投棄したって発表したのさ」
あたしは黙って聞いていた。
「どうして?……なんで、あなたはそれを知ってるの?」
あたしは男の目を見て聞いた。男はもう茶化すような口調では話さなかった。
「あれは俺の弟だからだ。俺は弟の悪夢を終わらせてやりたくて、それで君らに会いにここに来た」